1年前のあなたと今のあなたは違う
分子生物学的には、1年前のあなたと今のあなたは全く別の存在です。
1年前あなたを構成していた分子と、今あなたを構成している分子は全く異なります。
つまり、分子科学的には、常に自分は変わっている状態で、1年前の状態とは全て別の分子と入れ替わっているということになります。
科学的根拠
まず、科学的知識のおさらいですが、人間を含め全ての生命体は「アミノ酸」からできています。イソロイシン、ロイシン、トリプトファン・・・・などなど。
人間には20種類のアミノ酸が存在し、人体はその20種類のアミノ酸で構成されています。
食料を摂取し→たんぱく質を消化し→分解→新たなアミノ酸を生成
という流れになります。
ここまでは中学生高校生の授業でも習っていると思います。
では、生成されたアミノ酸はどこにいくのでしょう?
・細胞分裂が起こってるところに運ばれ、細胞作りに使う
・身体の欠損個所に運ばれ、細胞の修理に使う
・運動エネルギーとして燃焼する
・そして残りのほとんどは便として排出される
そんなイメージではないでしょうか?
私も当然そう思っていましたし、多くの科学者がそう思っていました。
アミノ酸がどこに運ばれるのか実験して確認したのが、
ルドルフ・シェーンハイマーという学者です。
(ちなみにシェーンハイマー自身もエネルギーとして消費されると思っていた)
シェーンハイマーの実験
シェーンハイマーはアミノ酸であるロイシンにマーキングをして、そのマーキング済みの餌をマウスに接種し、ロイシンの分布を調べました。
(因みにマーキング方法はロイシン(化学式C6H13NO2)の窒素Nを同位体の重窒素のみで作成し投与し、重窒素の行方を調べた。)
すると驚くべきことに、身体の隅々のアミノ酸に重窒素が行き届いており、
3日間の実験で56.5%も身体を構成するたんぱく質に取り換えられていたとのこと。
もちろんこの実験中マウスの体重変化もありませんでした。
変わらない部分はない
アミノ酸が取り換えられたのは、代謝が激しい箇所、内臓や、筋肉だけでなく、
骨や脳細胞に至ります。
つまり、分子生物学的には、文字通りあなたは一年前のあなたとは別の分子、別のアミノ酸によって構成されているということになります。
見た目は変わっていないけど、中身のアミノ酸は入れ替わっている?
固定されているのに変動している?
なんだか相反する状態で、イメージしにくいと思います。
渦巻き状態
福岡伸一教授の書かれた「生物と無生物のあいだ」を参考に説明したいと思います。
福岡先生は分子生物学の一人者で、生命体の中で分子が入れ替わっている状態を
「動的平衡状態にある」と著書の中で述べています。
動的平衡とは、流動しながら形を保っている状態のことで、例を出すと、
川の中の渦巻きのような状態です。
渦巻きは、水が流動し続けてながら、渦巻き状を形成しています。
人間を含む生命体も、分子が流動して入れ替わりながら、体状のものを形成しているとも言えます。
なので、イメージとしては、地球上を流れる大きな原子の波の流れに存在する大小様々な大きさの渦巻きが生命体であるというイメージです。
個はない
じゃあ自分や他人、その他の生命体の渦巻きの上に「魂」がある感じですか?
と問われると、私は、ただ無数の原子の渦巻きがあるだけで、「魂」はないと考えています。
これは「意識は幻想である」のテーマでも伝えていますが、私は、意識は幻想であり、存在していないという立場です。
今回の1年前の自分とは全く違う自分の分子である。というテーマもこの立場をより補強しています。
ドライに言えば、生命体は地球上で尊いものでもなく、ただの自然現象であり、ただの無数の渦巻きである。ということになります。
ロマンチックに言えば、
「魂」「意識」は存在しないが、原子の流れに発生した渦巻きが複雑になり、一時の幻想を抱かせている奇跡のようなものとも言えます。